「もう少し楽にならないだろうか」「人がやらなくてもいい作業じゃないか」そう思いながらも、日々の業務に追われて後回しになってしまう業務改善。不満はありつつも、従来のやり方を繰り返している――そんな状況はどの病院でも珍しくありません。私たちはこれまで、病院の皆さまと共にRPA(Robotic Process Automation)を使った業務の自動化をサポートしてきました。本稿では、私たちがご支援した医療機関でのRPA実用例を通じて導入のヒントをお伝えします。■ 医事課|数字に厳しい日々の「病院管理日誌」作成作業の自動化病院の運営状況を把握するために、毎日作成される「病院管理日誌」。入院・退院・転棟・転床・診療科別の患者数・外来数などをまとめるこの資料は、数字の正確さが求められるうえに、手作業の積み重ねによって大きな時間と集中力を要する業務でした。ある病院では、医事会計システムからのデータ抽出、Excelでの加工・集計、確認作業を含め、毎日2時間半が費やされていました。ここにRPAを導入した結果、データの取得から日誌の完成まで一連の作業を自動化することに成功しました。作業時間の大幅削減に加え、土日や連休明けにまとめて作成する負担もなくなりました。別の病院では、AccessやFileMakerを活用していたため、一見作業負担が少ないように見えていました。しかし、データ取り込みや処理に時間がかかっており、担当者が出勤してからでないと日誌が完成しない状況でした。RPAでこの部分を自動化したところ、職員が出勤する前に日誌が完成するようになり、朝一番の情報共有がスムーズになりました。■ 薬剤科|計算ミスが許されない「クレアチニンクリアランス」の自動化内服薬の処方量調整に欠かせないクレアチニンクリアランスの計算ですが、電子カルテや検査部門システムが自動で算出してくれるとは限らず、多くの現場では一人ひとり患者情報を電子カルテで収集し、Excelや計算サイトに入力して計算する作業が今も頻繁に行われています。RPAによる自動化では、入院患者一覧から年齢・体重・血清クレアチニン値を自動で取得し、性別ごとの計算式に基づきクレアチニンクリアランスを算出できるようになったため、薬剤師としての本来業務である処方量の確認に注力できるようになりました。さらに、体重や血清クレアチニン値の測定が古いままになっている患者にはフラグを立てることで、他職種への依頼もスムーズになり、業務の抜け漏れ防止にもつながっています。■ 看護部|ベッド運用の“見える化”による行動変容看護部門では、ベッドコントロールに苦慮している病院が少なくありません。特に、金曜日に退院が集中し、週末の空床が多くなるという課題を抱えるケースが多くあります。そういった声掛けをしても、なかなか効果がないと相談を受けることもあります。ある病院では、入退院予定の患者数を1週間単位でグラフに可視化し、職員と情報を共有するようにしました。このグラフ作成は1回あたり5〜10分ほどの作業ですが、RPAにより1日3回、最新のデータに基づいて自動で作成し、イントラネットで配信する仕組みを構築しました。「お願いしにくい」「忘れやすい」作業でも、RPAは黙々と、確実に対応してくれます。この見える化により、特定の曜日に患者の退院予定が集中する傾向が抑制され、全体のベッド運用の改善につながったと報告を受けています。■ 小さな改善が、大きな時間を生む「たった30分の作業だから」と後回しにされがちな業務でも、月20日続けば10時間、年間で120時間となります。職員の“何気ない負担”が積み重なれば、病院全体の生産性にも大きく影響します。RPAは、電子カルテなどのシステム導入や機能追加では対応しきれない、目立たない業務にこそ効果を発揮します。さらに、病院独自の業務にも、設計次第で柔軟に対応することが可能です。■ 導入のハードルは想像よりも低い「RPAってプログラマーがいないと無理なのでは?」「担当者がいなくてなかなか踏み切れない」といった不安はございませんか。実際のところ、今回ご紹介した事例の多くは、開発経験のない病院の職員をサポートしてRPAの導入と運用を実現しました。最初は試行錯誤の連続でしたが、やりながら学ぶことで、現場で維持・改善できる仕組みになっています。■ おわりに:現場の声から始める、持続可能な業務改善RPAは、すべての業務を自動化する魔法の道具ではありません。しかし「この作業、どうにかならないかな?」という現場の声に応える手段として、現実的で効果的な選択肢です。現場のちょっとした困りごとに向き合いながら、少しずつ働きやすさを積み上げていきます。そんな業務改善の第一歩として、RPAの活用をぜひ検討してみてはいかがでしょうか。