狭義のデジタル化の先にあるDX「経済財政運営と改革の基本方針2022」、いわゆる「骨太の方針2022」を受けて、2022年10月に医療DX推進本部の第1回会合が開催されました。診療報酬改定DXやオンライン資格確認など、医療DX領域の検討が進みつつあります。総務省の「令和3年版情報通信白書」では、DXの定義と類似した用語の定義の違いを示しています。(総務省「令和3年版情報通信白書」)Digitization(デジタイゼーション)既存の紙のプロセスを自動化するなど、物質的な情報をデジタル形式に変換することDigitalization(デジタライゼーション)組織のビジネスモデル全体を一新し、クライアントやパートナーに対してサービスを提供するより良い方法を構築することDX:Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)企業が外部エコシステム(顧客、市場)の劇的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること病院に読み替えれば、紙カルテを電子カルテに変換することが「デジタイゼーション」、対面診療というビジネス全体をデジタル化によりオンラインで対応できる遠隔診療へ変換することが「デジタライゼーション」だといえます。そしてDXは、狭義のデジタル化(デジタイゼーション・デジタライゼーション)の先にある、組織変革によるコスト構造変革を実現し、従来とは異なる事業領域(病床機能転換や新規事業の開始)で患者経験価値(PX)向上などの競争優位性を実現することが求められます。こうした定義を踏まえた上で病院DXを考えていくと、理想と現実に大きな乖離があることを痛感させられます。電子カルテ普及率の現実厚生労働省の「電子カルテシステム等の普及状況の推移」によると、令和2年の一般病院の電子カルテ普及率は57.2%(4,109/7,179)。ようやく半数を超えてきました。しかし、詳細を見ていくと、200床未満に絞ると普及率は48.8%(2,572/5,270)と半数に至っていません。DXの前の紙カルテのデジタル化(デジタイゼーション)すら半数程度で、まだ紙運用が多く残っているということです。つまり、病院DXを進めていくには、その前に狭義のデジタル化を済ませておく必要があります。以前のお役立ちレポートで、病院事業は薄利でありDXは待ったなしであると解説しました。病院DXは、病院ダイエット?https://nkgr.co.jp/useful/hospital-quality-organization-89389/病院DXにより組織変革を行い、その結果としてコスト構造を変革しておかなければ、現在の物価高騰に対応できません。また下記のレポートで解説したように、建替えを控えた病院では特に病院DXは避けられないと思います。物価高騰の中で建替えを実現するための病院DXhttps://nkgr.co.jp/useful/hospital-quality-organization-96193/こうした背景を考えれば、病院DXを行う前提として狭義のデジタル化をまず進める必要があると思います。病院DX初期診断と要求仕様書デジタイゼーションの一例として電子カルテを紹介しましたが、電子カルテをはじめとした病院情報システム(HIS)の導入については、病院とベンダーとの情報の非対称性により、機能面や費用面で期待値との差が出ることがあります。そこで弊社では、導入前に現状業務分析(病院DX初期診断)を行い、多職種協働型のプロジェクトで院内の共通理解を醸成しながら、ベンダー選定のための要求仕様書を作成することをお勧めしています。この要求仕様書を用いて、同じ内容の仕様でベンダー各社から提案してもらい、その内容について機能・費用・操作性の3つの視点で比較検討することを助言しています。こうした取り組みを行うと導入への手間はかかります。しかし、多職種協働型のプロジェクトで院内の共通理解を醸成しているので、システムの構成をプロジェクトメンバーが理解しています。そのため、導入前の手間はかかりますが、導入後の運用が上手くいくことが多いです。さらに、要求仕様書を活用することで、費用面でも適正価格での導入ができています。逆に導入前の手間を省いてしまうと、導入後の運用が非効率になったり、追加費用がかさむことにもなりかねません。実際そのようなケースは散見されます。公立・公的病院の調達価格(システム導入費用)電子カルテをはじめとした病院情報システム(HIS)の導入では、DXに至る前の狭義のデジタル化段階なので、このステップだけではコスト構造の変革は実現できません。導入前に手間がかかるとしても、適正価格での導入は経営的・財務的にもより重要になります。あくまでも私の感覚的な印象で恐縮ですが、民間病院よりも公立・公的病院の調達価格(システム導入費用)は高くなる傾向があるように感じています。ちなみに総務省では「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業」として、公立病院へ経営面のアドバイザーを派遣する事業を行っていますが、この事業に「DXの取組」が追加されました。背景には民間病院と公立病院の調達価格の価格差があると考えられていることも一因にあるのではないかと思います。総務省「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業」https://www.soumu.go.jp/iken/management/index.htmlなお、私、太田も、アドバイザーの一人として登録されています。登録者情報https://www.soumu.go.jp/main_content/000866086.pdf病院のHIS導入(リプレイス)のサイクルは5~10年単位になるため、どうしても病院とベンダーとの情報の非対称性が発生します。病院が情報不足で判断に迷うシーンも出てきます。前述したような要求仕様書を用いて、しっかり事前検討・準備したベンダー選定が求められます。こうした取り組みは、民間・公的・公立など設立主体を問わずに取り組むことが望ましいでしょう。公立病院の場合、前述した「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業」のアドバイザー派遣を活用したり、外部コンサルタントを活用したりして、情報不足を補いながら取り組みを進めることが、システム導入(デジタル化)を効果的に実現するポイントだと思います。「病院DXは、病院ダイエット?」のレポートのように、病院DXで組織変革やコスト構造変革を行うことが求められています。目的やゴールを明確にし、病院DXを行う前提として電子カルテの導入など狭義のデジタル化を進めることが必要だと思います。