はじめに本コラムでは、諸外国における医療DXの取り組みや事例を紹介するとともに、それらから得られる示唆を基に日本の医療DX推進のための現在位置を確認します。さらに、DXコンサルタントとしての視点から、日本が直面する課題に対する具体的な解決策を探求し、持続可能な医療の未来を形作る道筋についても考察します。諸外国の医療DXの状況医療DX(デジタルトランスフォーメーション)は、先進国を中心に進展しています。高齢化の進展、医療費の増大、そしてコロナ禍を契機としたデジタル化の加速が共通の課題となっています。特に、遠隔医療やデジタルヘルスの普及が注目されています。欧州連合(EU)は、European Health Data Space(EHDS)※1の構築を進め、クロスボーダーヘルスケアの推進やデジタルヘルス人材の育成を支援しています。アメリカでは、21st Century Cures Act※2による相互運用性の推進やバリューベースドケア※3への移行が進められています。中国は、「健康中国2030」計画に基づき、デジタルヘルスや遠隔医療を積極的に推進しています。※1 EHDS(ヨーロッパ医療データスペース)は、EU全体で医療データの共有を促進し、国境を越えた医療サービスの提供や研究開発を支援する仕組みです。※2 21世紀治療法(21st Century Cures Act)は、アメリカで2016年に制定された法律で、医療データの共有や新薬・治療法の開発促進、医療システムの改善を目的としています。※3 バリューベースドケア(Value-Based Care)は、医療の質を重視し、患者の健康成果に基づいて医療サービスを提供・評価する仕組みです。具体的な取り組み事例1. エストニアエストニアでは、X-Roadという情報基盤が使われています。医療情報を含むさまざまな公共データを安全かつ効率的に共有するためのシステムであり、医療情報連携基盤を活用し、電子処方箋システムが99%普及しています。患者はポータルを通じて医療記録にアクセスできるようになっています。2. デンマークデンマークは、sundhed.dkという医療情報プラットフォームを運営し、かかりつけ医を中心に遠隔医療を展開しています。予防医療にもAIを活用しています。3. シンガポールシンガポールは、HealthTech 2025計画を推進し、スマートホスピタル(IoTやAI技術の活用など)を整備しています。また、テレヘルスライセンス制度を確立し、遠隔医療の普及を支援しています。これらの事例から、日本の医療DXに対する示唆としては、以下の点が挙げられます。● 国家レベルでの戦略的なデジタル化の推進● 標準化された医療情報基盤の整備● 予防医療とデジタルヘルスの融合● 官民連携によるイノベーション創出● 医療人材のデジタルリテラシー向上今後の展望と日本の取り組み日本の医療DX推進においては、段階的なアプローチが重要です。既存の医療制度との整合性を保ちながら、段階的にデジタル化を進めることが求められます。また、医療制度改革とDXの連動が成功の鍵を握ります。インセンティブ設計を見直し、地域特性に応じた展開が必要です。さらに、医療DXを推進するためには、医療人材の育成が不可欠です。医療従事者に対する教育や研修プログラムを充実させ、デジタルリテラシーの向上を図る必要があります。今後の連載では、医療DX推進の具体的な方法や成功事例を紹介し、医療機関のデジタル化を加速するための具体的なステップを解説していきます。DXコンサルタントの視点・医療DXの重要性医療DXの推進は、日本の医療制度にとって不可欠な課題です。医療の質と効率の向上、そして持続可能な医療提供体制を実現するためには、デジタル技術の活用が鍵となります。DXの導入により、医療機関は限られたリソースを効率的に活用し、患者中心の医療を提供することが可能になります。・医療従事者の役割と組織改革一方で、DXの成功には医療従事者の協力と理解が不可欠です。教育や研修を通じてデジタルリテラシーを向上させ、医療従事者が自信を持って新しい技術を活用できる環境を整えることが重要です。また、医療DXの推進には、技術的なインフラ整備だけでなく、組織全体の文化や意識改革が必要です。特に、上層部のリーダーシップとビジョンの共有が重要であり、全員が共通の目標に向かって協力する姿勢が求められます。・持続可能な医療の未来を目指して医療DXは、短期的な効果だけでなく、長期的な視点での持続可能な発展を目指すものです。技術の進化とともに、医療の質と効率を高めるための取り組みを続けていくことが重要です。これにより、患者にとってより良い医療サービスを提供し、医療従事者の働きやすい環境を整えることが可能となります。最後に今後の日本の医療DX推進には、既存の医療制度との整合性を保ちながら、段階的にデジタル化を進めるアプローチが求められます。また、医療従事者の教育や研修を充実させ、デジタルリテラシーを向上させることが不可欠です。組織全体の文化や意識改革も重要であり、上層部のリーダーシップとビジョンの共有が成功の鍵を握ります。医療DXは、長期的な視点で持続可能な医療の未来を築くための取り組みです。技術の進化に合わせて、医療の質と効率を高める努力を続けることで、患者にとってより良い医療サービスを提供し、医療従事者の働きやすい環境を整えることが可能になります。本コラムが医療・病院DXの形を築く一助になれば幸いです。出典欧州連合(2021)「European Health Data Space」https://ec.europa.eu/health/ehealth/dataspace_enUnited States Congress(2016)「21st Century Cures Act」https://www.congress.gov/bill/114th-congress/house-bill/34中華人民共和国国務院(2016)「“健康中国2030”規画綱要」http://www.gov.cn/zhengce/2016-10/25/content_5124174.htmエストニア情報システム庁(2019)「X-Road」https://www.ria.ee/en/state-information-system/x-road.htmlSundhed.dk(2020)「Sundhed.dk - The Danish eHealth Portal」https://www.sundhed.dk/シンガポール保健省(2018)「HealthTech 2025」https://www.moh.gov.sg/