「最近、患者さんの顔をしっかり見て話せていますか?」外来業務では、検査結果の確認、記録の入力、オーダー処理など、常に複数の業務が並行して発生します。そのため、医療従事者が患者としっかり向き合いたくても、実際にはパソコンの画面と向き合う時間の方が長くなってしまうのが現状です。一方で、一生懸命対応しているのに「待ち時間が長い」と言われてしまう。そのたびに、報われなさを感じたことのある方も多いのではないでしょうか。しかし、これからの医療現場は確実に変わっていきます。今回は、医療従事者の視点から、外来業務の“少し先の未来”を描いてみましょう。▰ 音声入力の次に来る、「AIとの対話による記録」現在、一部の現場では音声入力の導入が進み、診察中の会話内容の文字化は実用段階に入っています。しかし、これはあくまで“人の手作業の効率化”にすぎません。次に来るのは、AIとの対話を通じた記録の自動生成です。たとえば診察中、AIが会話内容をもとにSOAP形式で記録案を自動で作成し、「この所見から○○の可能性がありますが、先生はどうお考えですか?」と提案してくる。医師は、「むしろ△△を疑っています」と応じるだけで、記録が完成していきます。記録は、「自分で書くもの」から、「AIと一緒に仕上げるもの」へ。診療現場の記録のあり方は、確実に進化を始めています。▰ パソコンの前から、患者のそばへ近年、医療現場では、医療従事者がパソコン画面に集中しすぎて、患者と目を合わせる機会が減ってしまっています。しかし、この風景はやがて過去のものとなります。今後は、タブレットに表示された選択肢をタップし、音声で「はい」「それでOK」などと返答するだけで、記録やオーダーが完了するようになります。その結果、医療従事者は患者の表情や仕草といった“非言語情報”をしっかり観察しながら、対話を深めることができるようになります。テクノロジーが、むしろ“人間らしい医療”を取り戻すきっかけになるのです。▰ 医事課の役割も、変わっていく診察中にリアルタイムで構造化された記録が生成されるようになると、医事課の業務も大きく変化します。たとえばAIが診察中に、「この処方には併記病名が必要です。○○を追加しますか?」「病名開始日に不整合があります。」などと確認を促すようになります。医師はその場で対応でき、後日の修正依頼や手戻りを大きく減らすことができます。その結果、医事課は「レセプト請求を漏れなく行う」役割から、「患者対応に専念する窓口業務」へとシフトしていきます。▰ 情報は「滞留させない」ことが重要に現在の現場では、「記録がまだで状況がわからない」「スキャン済みの書類が見つからない」といった“情報の詰まり”が、日常的に発生しています。しかし、音声入力による即時記録や、AIによる自動検索・集約機能が整えば、情報は常にリアルタイムで更新され、流れていきます。「情報が揃うのを待ってから動く」のではなく、「必要な時に、必要な情報へすぐにアクセスできる」環境へ。こうした仕組みが整えば、各職種の判断はより正確に、より早く行えるようになります。▰ 専門職が“本来の役割”に集中できる外来へ「もっと患者と向き合いたい」「専門性に集中したい」。そう感じている医療従事者は多いはずです。AIが記録や確認といった補助業務を担うことで、医療従事者は“人にしかできない仕事”に専念できます。「判断」や「ケア」といった本来の業務に集中できる日常が、すぐそこまで来ているのです。必要な技術は、すでに私たちの手の届くところにあります。今問われているのは、「それらをどう組み合わせ、どう現場にフィットさせるか」です。▰ おわりに:「働き方」が変われば、医療も変わる病院は「病を診る場所」であると同時に、「人と人が関わる場所」でもあります。これからの病院DXは、単なる効率化ではなく、「専門性を発揮できる余白の創出」と「対話の質の向上」を目的とするべきです。パソコンの前から患者のそばへ。記録に追われる毎日から、専門職としてのやりがいを感じる日々へ。そんな未来を遠い話にしないために、まずは日々の業務を見直してみましょう。「これは人がやるべき仕事か?」「技術で代替できる余地はないか?」一人ひとりの小さな意識と工夫が、“少し先の未来”を、確かな現実として引き寄せていくのです。