本連載では、成功事例や具体的な実装方法を通じて、医療DXが抱える課題と解決策を探求し、その実現に向けた道筋を提案します。本コラムが、医療・病院DXの形を築く一助になれば幸いです。はじめに株式会社日本経営は、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)を「デジタル技術を活用した医療提供体制の変革」と定義しています。これは単なるIT化やシステム導入ではなく、医療機関が持続可能な発展を遂げるための包括的な取り組みです。医療DXは国や自治体が推進する医療分野全体のデジタル化に関する政策で、医療制度やサービスの改革を目指しています。一方、病院DXはCX(組織変革)を目的に手段として、D(デジタル)も活用して成果を出す労働生産性向上が求められます。具体的には、RPAやSaaS型サービスにより、業務プロセスをデジタル化して、業務効率化や患者サービスの向上を図る取り組みになります。医療DXでは、特に以下の3つの視点を重視し、医療の質や効率の向上を目指します。1. 患者価値の向上患者満足度の向上と医療の質の改善を実現し、安全で効率的な医療サービスを提供することを目指します。また、患者参加型の医療を推進し、患者中心のサービス体制を確立します。2. 働き方改革の実現医療従事者の業務効率化を進め、働きやすい職場環境の整備を図ります。さらに、タスクシフトやタスクシェアを促進し、医療現場の負担を軽減します。3. 経営基盤の強化経営の可視化とデータに基づく意思決定を支援し、業務プロセスを最適化することで、限られた資源を効率的に活用します。これらの取り組みを通じて、「患者・職員・経営」の三位一体の価値向上を目指し、持続可能な医療体制を実現していきます。本連載では、医療DXの実装方法や成功事例を紹介し、今後の医療のあり方を探求していきます。日本の医療業界を取り巻く外部環境と課題日本の医療業界は、いくつかの大きな課題に直面しています。まず、人口動態の変化が医療需要に大きな影響を与えています。2025年には団塊世代が後期高齢者となり、それに伴い医療の需要が急増すると予測されています。さらに、生産年齢人口の減少により、医療従事者の不足が深刻な懸念となっています。2040年には、現役世代1.5人で1人の高齢者を支える社会構造になると予想されています。医療提供体制においても、大きな変革が求められています。医療機能の分化と連携の推進が進められており、地域医療構想に基づく病床の再編が行われています。また、医師の働き方改革も進展しており、2024年度からは時間外労働の上限規制が適用される予定です。技術革新の進展も目覚ましいものがあります。AIやIoTなどの先端技術の発展により、ビッグデータの活用や遠隔医療の普及が進んでいます。これにより、医療の効率化や質の向上が期待されています。医療業界が直面する課題医療業界が抱える課題は、構造的な問題、運営面の問題、そしてデジタル化の問題に大別できます。1. 構造的な課題医療費の増大は深刻な問題です。2040年度には医療費が約68兆円規模に達すると予測されています。また、医療従事者の不足も大きな問題で、2040年には看護職員が約53万人不足すると見込まれています。さらに、医師の地域偏在が問題となっており、都道府県間で最大1.7倍の格差が存在します。2. 運営面の課題医療の質の担保と効率化の両立は、常に議論の対象です。急性期病床の適正化や医療安全管理体制の強化も急務となっています。3. デジタル化における課題医療機関におけるシステムの互換性不足や、医療情報の標準化の遅れも課題です。また、セキュリティ対策や投資対効果の見極めも、DX推進の障壁となっています。まとめ日本の医療業界が直面する課題への対応は、デジタル技術を活用した「医療DX」が鍵となります。医療DXは、短期的な効果だけではなく、長期的な視点での持続可能な発展を目指し、技術の進化とともに医療の質と効率を高めるための取り組みを継続することが重要です。これにより、患者にとってより良い医療サービスを提供するとともに、医療従事者の働きやすい環境を整えることが可能となります。出典l 国立社会保障・人口問題研究所https://www.ipss.go.jp/l 厚生労働省「地域医療構想」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000080850.htmll 経済産業省「経済産業省におけるヘルスケア産業政策について」https://www.meti.go.jp/policy/monoinfoservice/healthcare/01metihealthcarepolicy.pdl 日本医師会「医療費の将来推計」https://www.med.or.jp/l 厚生労働省「医療の質の向上に関する研究」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/l 厚生労働省「医療分野の情報化の推進について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/index.htm